2020年の良かった音楽ベストテン

 年間ベストテンを詳細コメント付きで選んだ上、大晦日に間に合った。なんて何年ぶりかなあ。これができたのは、やっぱり今年が「特別な年」で、結果的に時間ができちゃったおかげですね。時代の変化に合わせ、どうやって聴いたかの記号もご参照の上お読みください。

●フィジカルCD
サブスクリプションで聴いたアルバム
〇曲


■Bronze / Aquarium

[Full Album] Bronze(브론즈) - Aquarium - YouTube

 今年後半、よく聴いてたのはハワイのコンテンポラリー・ポップと韓流シティ・ポップ。前者は主にアロハ・ガット・ソウルからリリースされるコンピとか、インターFM『iHeart Hawaii』(土9:00-12:00)から情報を得ていて、後者に関してはYouTubeだったりするんだけど、何しろどちらも元々の基礎教養がないジャンルなので、アーティスト名とか全然覚えられなくて、無知な生徒のまま曲だけ浴び続けている感じで、でもそれが良くて。小西さんの歌詞に出て来る「飛行機の中で見た、そんなに悪くない短い映画」みたいな感じで一期一会を愉しんでいます。
 そんな中、これはさすがに名前覚えた。ってのがブロンズ。永井博ジャケでラストに一十三十一が入って♪残酷な夏のメロディ~、なんて歌ってて完璧過ぎる。今行けないけど、聴いてると湘南とか海雲台とか浅虫とか、つまり海沿いドライヴに行きたくなってたまらない。で、代償行為として『カーグラフィックTV』『クルマで行こう!』『昭和のクルマといつまでも』といったクルマ番組の録画を無音再生しながら聴いたりしています(『おぎやはぎの愛車遍歴』はトーク消すと面白みがなくなるのでここでは使わない)。特に今年は『カーグラ』でアーカイヴ放送が多くて、80年代の都内ドライヴの画と合わせるのなんか最高でしたね。


■Gary Corben / Gods in Brazil

Gary Corben - Gods in Brasil - Puma 72 - (Pseudo Video) - YouTube『Gods in Brazil』全曲

Gary Corben - Summer's Almost Here - from the album A New Kind of Fool - YouTube

“Summer's Almost Here”PV

 これもどこで情報得たか忘れちゃったけど、令和の時代に突如現れたお洒落伯父さん。みたいな佇まいにヤラれて何回も聴きました。アルバムのあとに出たサマー・チューンがまた最高。

 

●Max / Colour Vision

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“Blueberry Eyes Ft. SUGA of BTS”PV

 ここからは今年のヒット・チューンのお気に入りを何曲か。と言いつつ、MAXはそれほど売れてないみたいですけど(NACK5小林克也さんの『ベストヒットUSA』では20位に入ったのを一回確認した切り)、すごく好きですね。今どき珍しくフィジカルCDが入手できたので、そうするとiPodにダウンロードできるから、走る時もよく聴きました。『Justified』でソロ・デビューした頃のジャスティン・ティンバーレイクがやってた音楽をアップデートさせたような印象で、背が低めの二枚目。ってのもジャスティンと共通してて、結果的にPVにどこかフェティッシュ味が出るのがイイんですよね。

〇Loxanne / Arizona Zervas

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 今年の夏の、心のベストテン第一位。実際にはデュア・リパとかに阻まれて三位止まりでしたけど。
 こんなにカワイイコード進行の曲なのに、PVの不幸無限ループ感が半端なくて、甘い毒にずっと溺れて続けているような感覚がたまらなかった。

〇Doja Cat / Say So

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 もう一曲カワイイヒット曲。これは六週くらいチャートのトップだったので皆さんご存じですよね。私が二十代だった頃、クラブとかでよく会うような女の子たちが好きだったカーディガンズとかセイント・エティエンヌとかみたいなガーリーでオリーヴィーな曲がこんなに大ヒットするのはちょっと不思議な気がした。今の彼女たちはこの曲聴いてるかな。

〇Giveon / The Beach

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 R&B代表ならこの曲。コード進行的に、ふたつ目のコードが井上鑑っぽいところに魅かれただけな気もしなくもないけど(苦笑)。

■ Sunset in Blue / Melodie Gardot

If You Love Me - YouTube

 iPodで聴く冬のプレイリストの一曲目は長いことずっと"Baby I'm a Fool"だったりして、メロディ・ガルドーのことは無条件で大好きなんだけど、例えばノラ・ジョーンズとかもずっと"Don't Know Why"ばかり歌ってるわけじゃないのと同様、ガルドーの歌世界もいろんな変遷があって、今回は私の一番好きなガルドーが帰って来た感じですね。静かで、体温低くて、でも少し甘い。この最後のビタースウィートの加減が重要で、個人的にはスウィート強めが好みなので今作は最高なんですが、他のガルドーのファンの皆さんはどうなんだろう。


畠山美由紀 / Song Book #1

【Miyuki Hatakeyama“Song Book #1” Release Live】at Billboard Live OSAKA - YouTube

 

 ゴンチチのラジオでかかった"The Last Waltz"のカヴァー(※)が良過ぎてCD注文してしまいました。ライナーに載ってる制作過程とかを見ても、2020年ならではのリモート・ミニマル・ベッドルームな作りが音楽の良さに直結している。今年はそういう名作が他にもたくさんあるんだろうと踏んでいるのですが私はあまり調べられていないので、お読みの皆様でお詳しい方、お薦めをぜひ教えてくださいね。

(※)人によって「ラスト・ワルツと言えばこれ!」が違うのがちょっと面白くて、ゴンチチのラジオで紹介してた渡辺亨さんにとっては(日本語版としては、ということで)尾崎紀世彦、畠山さんは岸洋子版だという。まあ私は出来合いの音楽ファンなのでエンゲルベルト・フンバーティングのを秋冬によく聴いていましたが、今回検索したら出て来た倍賞千恵子版がまたいいですね。

♡ ラストワルツ 尾崎紀世彦 - YouTube

ラストワルツ 岸洋子 - YouTube

The last waltz - Engelbert Humperdinck - YouTube

倍賞 千恵子 CHIEKO BAISHOU ラスト・ワルツ LAST WALTZ - YouTube

 

クレイジーケンバンド / NOW

【Digest】CRAZY KEN BAND * NOW at NIPPON BUDOKAN - YouTube

 CKBは私にとって殿堂入りアーテイストなので、年間ベストとかに敢えて入れたりしないのが通例なんですが、特別な年に特別なアルバムを作ってくれたので例外的に。冒頭の"サムライ・ボルサリーノ"が今年を反映しまくっていて(歌詞の展開が構造的に凄い。発明、と言っていいレヴェルじゃないかな。これは皆さん、歌詞カード精読しながら聴いて欲しいです)、そこからM4"だから言ったでしょ"までの組曲的流れと、今年の空気感の反映ぶりが完璧過ぎ。CKBの歴史を追った上で書くなら、2015年『もうすっかりあれなんだよね』で敢えてキャッチーな曲展開を排してコード動かさないような曲中心でアルバムを作り切った経験が今回図らずも活きたな、という印象。プラス、2000年『ショック療法』の頃のヨーロピアン・エレガンス全開なニュアンスも久々に強め。いつもCKBのアルバムが出ると、何回か聴いてから気に入った曲を自分のCKBプレイリストに反映させて、以後はそれを聴く。ってのが通例だったんですが、今回は『NOW』そのものを、リリースから結構経った今も聴いています。

〇F2020 / Avenue Beat

和訳 // 2020年が嫌になってきたあなたへ F2020- Avenue Beat - YouTube


 で、最後に。今年を本気で代表してる曲ってなったらこれしかない(苦笑)。日本語版リリックヴィデオでどうぞ。この「特別」感が、来年以降、多少は過去形の「特別」になってくれることを願います。さよならF2020。禍が明けたらハグしよう。良いお年を。

 今、山下達郎がエラく怒られてるので、毎週サンソン聞いてる者から細部の確認させてね。
 まず、問題になってる発言の前の週では、
スマホに入れてるネットニュースのアプリは全部消した、CNNとBBCは残して」「一次資料とデマもどきの雑音が等価に並んでる垂れ流し的なメディアでは的確な情報が得られない」(大意)
と言ってましたよ。
 ここで、達郎は別にほぼ日ダーリンみたく「とにかく黙っとけ!」って言いたい方ではなく、主眼はフェイクニュースの氾濫を憂いているんだと私は感じました。
 問題になっている発言の箇所だけ切り取ると確かに「とにかく黙っとけ!」に見えるんだろうけどさ、そこまでの文脈ってもんがあると思うんだよね。
 どっちかって言うと、そこを切り取って「ほぼ日と変わらねえ達郎はクズ」とか言うよりは「違う違うそうじゃない、デマ食い止めたくて達郎は言ってるんだ」ってことの方を広めた方がいいと思います。
「いや、意図がどうだろうと、結果として切り取られた言葉の作用が問題だ」って言うんならまあアレですけど、結果、今はもう「達郎叩き」を内輪もめ扱いで揶揄するネトウヨ的な方々からのツイートがいっぱい並んでいますよ。
 あんなものに利用させないで、文脈を確実に追ってフォローした上で、達郎にがっかりするんならがっかりして欲しい。
 私は検証した結果、まだがっかりしていないです、ぎりぎり。

夏について

●皆様いかがお過ごしでしょうか。
 暑い日が続いていまして、豪雨で被災された皆様には心よりお悔やみ申し上げます。
 私もふるさと納税を通じて何とかしよう、と調べたところ「代理寄付」というやり方がいいようです。詳しくはこちら。私も近日中に必ず。

●さて、これから書くことは、ある種の方々には大ヒンシュクなお話かも知れません。でも書きますね。
 正直、猛暑って大変ありがたいです。夏大好き。週五日のうち四日は帰宅ランしています。
 だって、走れば走るほど大汗かいて痩せるじゃないですか。私のように年中ダイエットばかり考えている者にとっては千載一遇の機会が正に今な訳です。
 もちろん熱中症対策はします。会社でもとりあえず退社二時間前辺りから、レモン濃いめの熱いレモンティーを二杯飲んで代謝アップ&水分補給。
 それから走り出すんですが、水って飲む以上に頭からかけるのが大事。いやホント、頭を冷やす。とはよく言ったものです。会社から10分くらい走ったところに広めの公園があって、そこで体幹レーニング的な準備運動をするんですが、最後はキャップに水を溜めて被ることで頭を冷やします。そのあと一旦キャップを取って髪を整える。この時オールバックにすると、気分はARB時代の石橋凌です(笑)。魂こがしつつ頭は冷やして帰宅ラン。スポットライトも孤独を映そうってなもんです。

●困りものなのは。
 三年前に父が亡くなりまして、体型があまり変わらないため、父の遺したスーツを全部着られる訳です。で、今生きてたら84のヒトが現役時代仕立てたスーツだから、全部テーラードのいいスーツなんだよね。
 で、あまり変わらない体型と言いつつ、父の方が若干、基本体型がスリム。
 対して私は、子供の時の写真を見るといつもカール持ってるようなおやつ大好き子だったので、今でも油断するとすぐぶくぶく太っちゃう。
 なので常に油断せずボディメイクしなきゃいけないんですが、ボディメイクのために帰宅ラン向けのクールビズ仕様でコーディネートすると、結果として、せっかくの遺産スーツは着られない。
 夏の悲しさというのがあるならこれですね。あー、毎日スーツ着させて(苦笑)。

●夏はいいなあ、夏大好き。と書こうとして躊躇してしまうのは。
 世の中には夏が嫌いな方が少なからずいるらしいから、ってとこもありますが。
 夏に限らず、春夏秋冬と梅雨とクリスマス、全部好きだからですね(苦笑)。夏だけじゃない。
 それぞれの季節にそれぞれの良さがある。生きてるんならそれぞれ味わいたいですよね。
 で、夏の選曲ミックスを作ってみたんだが、これが我ながら最高(苦笑)。聴いてみたい方は連絡ください。これもホント最高。

●こういうの解説するのは野暮かもですけど、オープニングの“Speak Low”のことだけ。
 「抑えて話して」ってくらいだから、あの曲のほとんどの解釈はスロウなんだけど、「スピーク・ロウ」に続くあの曲の次のフレーズ、こうなんですね。
「だって、夏はあっという間に過ぎ去るんだから」
 つまり、じっとしてるためじゃなくて、あっという間に過ぎ去る夏を捕まえるために緊張感を保っていて、って意味でのスピーク・ロウ。
 私が選んだハルカ・ヴェロニカのヴァージョンって、あっという間に過ぎ去る夏のイメージに沿った「スピーク・ロウ」解釈なので最高なんです。
 夏、結構早く終わっちゃうよ。これぐらい純度の高い夏なんてなかなかだ。今のうちに。

●私なりに最高の夏を過ごせています。皆様も最高の夏を。

2017 Favourite

■年末年始に、好きなもののベストテン(だったりファイヴだったりスリーだったり)を選ぶ。ってやつを久しぶりにやってみます。とりあえず選ぶだけで手一杯でしたので、コメントとかは後日五月雨式に追加して行ったり行かなかったり。ってことでひとつ。
※「ラジオ」に関してコメントを追加しました(1/3)。

●映画・ベストスリー

・甘き人生
・ロスト・イン・パリ
ベイビー・ドライバー


●ライヴ・ベストテン

・Penny Arcade(2/25下北沢Que)
Summer Sonic 2017(8/19東京 Jose James〜Dua Lipa〜Honne〜エレファントカシマシ〜Kelani〜Black Eyed Peas〜Tuxedo)
菊地成孔×漢 a.k.a GAMI×DJ BAKU(8/27青山Wall&Wall“ROAD TO KAIKOO FES 20XX”)
山下達郎(8/31長野ホクト文化ホール)
Crazy Ken Band(9/2横浜赤レンガパーク)
Erykah Badu(10/7豊洲PIT “Soul Camp”)
・Diana Panton (10/10 丸の内コットンクラブ)
与世山澄子(12/7 代官山晴れたら空に豆まいて)
Nona Reeves(12/17渋谷クラブクアトロ“ヒッピークリスマス”)
・ゆるふわギャング(12/26 渋谷wwwX)


●アルバム・ベストテン

・『Harmony Of Difference [EP]』Kamasi washington
・『Introducing Stokley』Stokley
・『Back 2 Life』LeToya Luckett
・『Street Rituals』Stone Foundation
・『The Search For Everything』John Mayer
・『Paris In The Rain』Sarah McKenzie
・『If All I Was Was Black』Mavis Staples
・『NEW VINTAGE SOUL〜終わりのない詩の旅路〜』伊集院幸希
・『HIKARI』jjj
・『MARS ICE HOUSE』ゆるふわギャング


●ラジオ・ベストファイヴ

・AOR(AFN系・月〜木19:00-21:00)
・Music Freeway(Nack5・月〜木23:00-23:30)
・山本さゆりのミュージック・パーク(ラジオ日本・土20:00-21:00)
・たまらなく、AOR(FM横浜・火深夜0:00-0:30)
小林克也ベストヒットUSA(Nack5・水深夜1:00-2:00)

■「ラジ録」というラジオ録音ソフトを使ってラジオを録音して聞くようになって久しく、通勤中はほとんどラジオ。毎週録音している番組は10本くらいあるが、そのうち、新しい音楽情報を得るために聴くというよりは、昔からのおなじみの曲がたくさんかかるような番組をここでは選んでみた。■『AOR』は東京FM以外のAFN系で放送していて、これは10年以上愛聴している。私の場合は朝の通勤時に聴く場合が多いが、この番組の一番いい聴き方は、地方でクルマ通勤をされている方が仕事帰りに聴く、というものだろう。ちょっとゆるめのドライヴ・ミュージックとして最適な曲が多く選ばれていて、年何度か青森に行った時にクルマでこれを聴くのをいつも楽しみにするようになって久しい。■『Music Freeway』は矢口清治さんの番組で、この方が2016年3月まで10年くらいNHK-FMでやっていた『ミュージックプラザ木曜日』というのが本当にいいオールディーズ番組だったのだが、それがなくなってから一年後、待望の復活ということで毎日聴いている。NHKの時に比べてアメリカントップ40寄りの選曲が多くなり、もう少し変わった曲もかけて欲しい気がするが、番組開始から一年近く経ち、ひと通り有名曲をかけ終わった今後に期待。で、その矢口さんと同じく『全米トップ40』出身の山本さゆりさんの番組も昔の洋楽ヒットが好きな人にはちょうどいい選曲。■『たまらなく、AOR』も始まって二年近くになり、時々ネタ切れ感を感じないではないが(ある特定の年代の、特定の音楽に絞って追っているので仕方のないことだ)、基本的に康夫ちゃんの選ぶ「AOR=アダルト・オリエンテッド・ロック」というのは「アダルト」の要素がそれ程強くなく、「ロック」度がそこそこ強い。そうなると結果的に朝聴くのにちょうどいい爽やか系な曲が多くなるので通勤時に重宝している。■今回、ゆるーく聴ける番組中心に紹介してみたけれど、最後にラジオ版『ベストヒットUSA』、これはフォーマットだけで行くと「昔ながらの――」な風情だけど、選曲に関しては完全に今のヒット曲なので、あまりゆるく聴く感じではなく、私にとってはアンチ・エイジング的な意味合いが強い。これとTVKの『ビルボードトップ40』は毎週欠かさず視聴するようにしていて、そうすると、コンテンポラリー・ヒットについて行けているとまでは言わないが(正直言って、好きになれる曲はどうしても少ないので)、「把握」はできている気がする。

流動体についてについて

 小沢健二さんの新曲“流動体について”は素晴らしい曲だと思うんですが、今、ニュース検索をすると一番最初に挙がって来る記事がひどい。
 妻に聞くとこういうのは「炎上商法」といって、わざとひどいことを書いて盛り上げるんだとか。なるほど確かに、こういう記事って紙の記事みたいに「いいこと言ってる、本買うよ」って形じゃなくて、「何だひどいな、よし精査して叩き潰そう」って流れで精査するために何回もクリックすると、その都度著者が得するわけだよね。それに付き合うのは馬鹿げてる。なんでリンクは貼らない。
 それにしても、その方、バカと書いてますからね。じゃあその曲気に入ってるオレもバカか、ってなって、あんまりいい気はしない。まあ、腹タツノリですよね(苦笑)。
 まあ、独身だったら人知れず藁人形打っときゃいいんで特に問題ないですけど、私もねえ、腹タツノリとか言って平気でオヤジギャグ言える齢になって、家庭もあるわけですよ。ウチは子供いないですけど、カミさんからするとね。夫が夜中にインタネ見て腹立ててるのって、ものすごくイヤじゃないですか。
 なんでまあ、家庭の雰囲気壊すのはほどほどに願いたいですな。お手柔らかに。


 まあ、この方は元々小沢健二の音楽が嫌い、または特段好きじゃないんでしょうね。なのに仕事として何か書くとしたら全部ディスにならざるを得ない。
 というのは、過去の小沢は凄かったのに今は「バカ」だ、という論拠としてタモリの小沢礼賛を引用するのはいいんですが、いくらどう読んでもそこだけ。ご本人があの時代に“さよならなんて言えないよ”を聴いて感動した形跡がない。
 ないので、元々嫌いなものを「劣化した」と書くために何か権威を持ち出して、「あの凄い人が『凄い』といってたんだから昔は凄かったらしいのに、今はダメだ」って話になってますよね。そこはまあ、書くんなら「元々ダメだった、今も当然ダメだ、昔も今もバカだ」ってちゃんと書かないと。何かに頼ったらダメですよ。
 で、まあ、この方に小沢的なものを理解する回路がないのは仕方ない。そういうひとも世の中にはたくさんいるだろう。
 判んなきゃ無理して何か言おうとしないで、黙ってればいいわけですけど、この方は趣味じゃなくて仕事として書かれているので、黙ってたら工賃もらえないわけですよね。そういう意味ではこちらの方が、生活のためにやってることにいろいろ言っちゃって申し訳ないくらいかも。イヤなら読まなきゃいいだけですからね。
 ただやっぱり、検索で一番目に出ちゃうと、読みたくないのに読まされちゃうわけですよ。一種のテロだ。参っちゃうよね。


 あそこで名前が挙がってたウォーレン・ジヴォンの曲、初めて聴きましたが、要するに「彼は昔の彼じゃない、時代は変わった」くらいのことをおっしゃりたいんですね。 
 そりゃあ変わるさ。変わったのはポップ・ミュージック。産業として著しく縮小してしまったのはご案内の通りで。今アナログ盤が売れてるって言うけど、別に『氷の世界』や『リフレクションズ』みたいに売れてるわけじゃないでしょ。達郎も言ってたけど書画骨董ですよ。
 去年出た曲で誰でも知ってる歌って、恋ダンスとピコ太郎くらいでしょ。その前は恋するフォーチュンクッキーか。あとあります?
 今回オリコン2位だっていうんで、久しぶりにオリコンのサイト見て枚数確認して驚いた。その枚数で2位なんだ、って。
 そういう意味では、もうポップ・ミュージックって「ない」と言ってもいいくらいのものだと私は感じています。


 今は変わったものの話をしたけど、変わらないのは。ラジオをつけると、十年一日で青春の葛藤とか歌ってるような歌がやっぱりほとんどで。だから日本語のポップスがかかる比率が高そうな番組は大体聴かない。もうちょっと違うもんが聴きたいです。
 「くだらない社会学者が好みそうなフレーズ」って言うけど、ちょっとクリシェから離れるとひどい言われようなんだな。近年よく聞く「同調圧力」ってのはこれのことか、って思っちゃう。
 ここ菊地成孔さんは「タイニーストレンジセンス」って言ってるけど、確かにそこがいいとこでね。
 菊池さんが挙げてる、サビ頭がドレミファソラシド、ってあそこも面白かったけど(メロディの差し込み方がやや強引で、そのため高音の苦しさがやや顕わなところが、また妙味出てますよね)、あとは調子っ外れぎりぎりのギター・ソロですね。あれ、もっと本格的にディスコードしたり、逆にそれこそグラスパー以降な感じの丁寧で洒落た和音奏でるんでもなく、飽くまで「ちょっとヘン」なとこが私は好きですね。
 もうポップ・ミュージックって「ない」ってさっき書きまして、これは淋しくて残念なことではあるけど、肯定的に捉えるなら、より自由にいろんな歌が歌えることにつながる可能性もあるわけだから、そういう芽は摘まないでいただきたいなと思います。


 まあねえ、人に歴史ありで、小説『うさぎ』とインスト・アルバム『毎日の環境学』が出た頃(もう11年前!)はタイニーストレンジセンスどころの話じゃなくて、もうオザケン、歌ものやるの無理なのかな。って感じてましたからね。それ考えると、新曲聴けるだけでありがたいですよ。


 余談ですけど、「くだらない社会学者が好みそうなフレーズ」って、いつかの日経の、デヴィッド・ボウイを「ウルトラマンのマネ」とか言っちゃったやつを思い出しますね。
 私、日経読むのが大好きなので(笑)、あの社説でネット炎上してるのを見た時はツラかったです。ホント「リベラルのことは嫌いでも〜」といっしょでさ、「日本経済新聞のことは嫌いでも、日本経済ウォッチングは嫌いにならないでください」って強く思いましたよ。


 さて。批判的な考察では↓のものもあって、読み応えはこっちの方がある。何より、この方はこの方なりに小沢の作品をちゃんと聴き込んでいる。今回の私の文、こっちをテキストに書いた方が良かったかもね。
http://i-love-existence.hatenablog.com/entry/2017/02/25/161738


 最初の、ネット検索1位の方もこの方も、タモリの例のやつ引用してる。みんなタモリが好きなんだなあ。まあ確かにあのタモリの解釈は素敵だし、あの曲は私も素晴らしいと思います。懐かしい海までドライヴする時には、石坂浩二の海についての朗読と、“美しさ”と改題されたあの曲の静かなヴァージョンを続けた選曲で作ったCD−Rを聴きながらクルマを走らせるのが好きです。すごくいいから試してみてね。
 ただ、もうそれやっちゃってる訳ですから。二回やらなくていいじゃん。
 で、私はもうタモリよりたけし、の世代なんで、オザケンでも『LIFE』以降より『犬は吠えるがキャラバンは進む』が一番好きです。普遍化するために丁寧な推敲を施した『LIFE』以降の素晴らしさもあるけど、その時感じたことをフレッシュ・ジュースのように直送する『犬』の素気なさの魅力もあり。今回のはそっちに近いかも。
 説明が足りない、とこの方は言う。ご説ごもっともだし、『犬』の方が好きってファンは少数派だろうけど。少数派なのを承知で言うなら、説明してなくて言葉の連なりが唐突、それこそが正に今回の曲の良さだ思うんだよね。
 ♪だけど意思は言葉を変え〜以降が最悪だっていうけど、これは飽くまでも歌詞なのに、言葉だけで分析してるからそうなるんじゃないかな。音楽的な分析がないんだよなあ。あの1'34"のとこで転調して、そこに重ねてるコーラスがいい効果になっていて、それと言葉が十分マリアージュしてる、と私は感じました。音楽音楽、聴いて総合判断しましょうよ。


 最初「腹タツノリ」で始まっちゃったんで論考が雑ですけど(まあ私の文なんていつもそんなもんですがね)、何か単に好きで音楽聴いているだけなのに、我がことのように感情をかき乱されるくらいやっぱりあの音楽が好きだった、ということに改めて気づくいい機会になりました。ご清聴を感謝します。

天使たちのシーン

 小沢健二復活の話題で私の周りはもちきりだが、明日は、これまた復活のペニー・アーケード、復活二回目にしてひとまずラスト・ライヴだ。
 前回のライヴを見たあとツイッターで「『ジャスト・キッズ』のパティ・スミスみたい」ということを書いたけれど、これは説明が必要だと思うので少し。
 『ジャスト・キッズ』については、こちらで読める山崎まどかさんによる評が的を得ているのでまずはそちらから一読願いたいが。憧れのニューヨークで魅力的な人々との出会いに心ときめかせ、やがて表現者としての自分を開花させて行くる二十代の自身を語るパティの筆致は、「自らを美化し過ぎでは?」と突っ込む暇も与えず、読む者にそのときめきをシンクロさせる。それこそ「躍動する流動体、文学的、素敵に炸裂する蜃気楼」というやつだ。
 で、まあ、パティがメイプルソープや、アンディ・ウォーホールをはじめとするセレブリティたちと過ごした70年代のニューヨークほどの規模ではなく、むしろスモール・サークルと言うべきものだったけど、80年代の終わりの東京の、ペニー・アーケードの周りには、素敵な人々が集まるシーンが確かにあった。小沢さんや小山田さん、明日ペニーと共演するフィリップスやデボネアといったバンドたちもそこにいた。
 前回の復活ライヴを見て、一瞬でそんなシーンの雰囲気が甦ってしまったことが「『ジャスト・キッズ』のパティ・スミスみたい」ということの真意。別に佐鳥さんの歌がパティ・スミスに似ているとかいうことはない。
 あと、ペニーの音楽はとてもポップだけど、どちらかと言えばポップ・ミュージックよりはポップ・アートの方にずっと近いポップ、である気がして、そういったところも『ジャスト・キッズ』を連想させたように思う。
 ということで明日のライヴ、昔よく会った人たちにまた会えるかな。会えたらどうぞよろしく。

土曜の朝のカーラジオ

カーラジオからはコモンとスティーヴィー・ワンダーの“Black America Again”が流れる土曜の朝。クルマを止めコンビニに入ると目に着いたのは『トランプ語録』。パラッとめくると、飲み屋のトイレに貼ってある色紙と言うか、KKベストセラーズのネタ本みたいと言うか。そんなスッカスカのフレーズがいくつか。おっかしいなあ、八年前に買った大統領の本は、英語原文と演説のCDまでついてたのに、こんなに安っぽくていいのかな。
と、とぼけてみたけど。こんなんでいい、いやこうでなければ! 下衆でなければ! というひとたちでいっぱいだからそうなったのだろう。何かもう、お前も今すぐ下衆になれ、って朝から圧力受けているみたいでツラくてしょうがなかったが。
クルマに戻った時、コモンの次にカーラジオから流れたのはジョン・レジェンド。彼の新作タイトルは『Darkness and Light』だと言う。明けない夜はない、ってやつだな。その流れにはちょっとグッと来た。下衆になれと言われてもそこは受け流しつつ、小西さんが引用して有名になった吉田健一の例のアレ――戦争に反対する唯一の手段は。ってやつで今日も行こう、と思い直した。選曲のピーター・バラカンさん、原雅明さんありがとう。