選挙について

●選挙で誰に入れたか書くのはあまりいいことでないと思っていますが、今回ばかりは書いて置きます。田中康夫青木愛でした。どっちの結果も結構驚きでした。

●野党サイドは前回に比べればかなり共闘できてたけど、一人区以外に関してはもっと候補者調整できた気が。かつてその辺、まとめるのに成功した唯一の人が小沢一郎なんで、その力を必要以上に削ぐべきではない、と比例区青木愛に投票。近年の生活の党の党勢からしてほぼ無理目かなと思いつつ投票したのに、最後の当選者に滑り込んで、投票したこちらも驚いた。これで生活の党は政党助成金を何とか確保できると思うんで、大事に使って欲しい。

●しかしもっと驚いたのは、何とか滑り込むと思ってた康夫ちゃんの落選。今回お維からの出馬で、最初驚いたけど、途中から私には意味がよく判った。それこそ、純度で言ったら康夫ちゃんは生活の党とかから出た方が判りやすいけど、それだと康夫ちゃんが今更出る意味がないもの。

ウヨサヨとか言ってるの意味なくない? って時代がかつて確かにあって、その頃政治の世界に転身して活躍したのが康夫ちゃんだった。街頭演説のYoutubeもちゃんと見たけど、そこは変わってない。しかし世の中は残念な固まり方をしている。がっちりウヨサヨ、に戻ってしまったんだろうな。そんなに判りやすくないとダメ……なのかな? いや、アンニュイで行こうよ。って人が、そんなにいなくなったとは思わないんだけどな。少なくとも私はいつもアンニュイなままです。

●話題変わって。選挙フェスが職場の近くでやってたのでつい最後まで見たけど、ネットでは電波デンパと言われて散々な三宅、しかしなかなか捨てたもんじゃなかったよ。「アベ政治を許さない、って放言して気持ち良くなってる場合じゃないんで、むしろ許そうよ。もっといい政治状況を作って」って意味の話をしてたけど、何にも間違ってないなそれは。それ以外で、昔で言うとカルロス・カスタネダとかにかぷれた人が言うようなことを三宅は言いがちで、デンパ呼ばわりにかなりの信憑性を与えてしまっているのが歯がゆいけれど、そこをがっちり推敲して、また頑張って欲しい。そこの推敲がうまく行くなら私も次は投票しますよ。

●ではいったん終了。次回はまた違う話題で、なるべく早くブログ更新します、どうかよろしく。

ピースとハイライトと玄米茶と今川焼

●今年最初のブログになります。今年もよろしく。と言うか、いつももう少しいろいろ文章書きたいなと思いつつなかなか果たせずにいますが、今年はもう少し何とか。ニーズがあるかどうかはさておいて。

●数年前から具合の良くなかった父の具合がいよいよ良くなくて入院中。そんな状況で帰省していた今年の年末は、必ずしも快適ではなかったかな。
 二階の自室に行くと、カレンダーが11月までで止まっていて。家のカレンダーをめくるのは父の役目だったから。正にバカラック&デイヴィッドの「目玉焼きが一個減った」(※)ってやつだよね。

(※)歌詞の日本語訳はこんな感じです。

●そういう時なので姉の一家も帰省していて。そんな年の瀬。
 私、去年の流行語大賞になった「ダメよダメダメ」というのを一回もテレビで見たことがなくて、そしたら年末特番のテレビで「ダメよダメダメ」を初めて見たので。
 「これの実物を初めて見たよ。それにしてもどんなひとたちが見るんだろうね。普通見ないよな地上波のこんなの」とか言ってたら、姉は「ダメよダメダメ」が大好きだったらしくて(苦笑)。しまった、何年か会わないうちにトライブが昔以上に違っちゃってた。と気づいたけど後の祭りだね。
 そこからあと、姉一家との会話が弾まなかったのは言うまでもないよね(苦笑)。俺も好きだよダメよダメダメ。くらいのことが言えないのか俺。って反省。ありゃ悪いことしちまった。スミマセン。

●でまあ、父の元気な頃。父とはもう少し話が合った。
 父は警察官だったんだけど、警察っていうと普通の人は、みんな右側みたいな奴ばっかりなんだろ、って思うかも知れない。まあ、遠くはないケースも少なからずでしょうね、と私も思います。
 でも、私が大人になってから、父と世の中のことについて話すと、意外とリベラルでね。そうだな、自民党で言うと宏池会くらいのスタンス。と言うと、判るひとにはすぐでしょう。もちろんベーアなんか大嫌いだから、意外と話が合うんだ(笑)。勲章もらった時の総理が"フフン"の福田さんでさ。賞状にも福田さんの名前で書いてあるんで、「良かったねまだ上品な総理の名前が書いてあって。前後ひどいもんな」とか言ったら頷いていたよ。

●そういった類の話をしていて、一番心に残っているのは。
 たまたま後藤田正晴さんの伝記を帰省時に読んでて、実家に置き忘れたことがあって。
 そしたらそれを読んだ父が感動したってんで、覚えたてのEメールをくれたことがあって。
 すごくいいメールだったんで、父に許可を得てネットで公開しました。これ
 そのあとしばらくして父と話したら。安保の時に同世代の若いひとたちを取り締まるのは本当に心が痛んだ。ということも言ってたな。

●しかしそんな父の現在を見舞いに行くと、本気で具合良くなくて。
 もちろん「安保とかの話してよ」って言っても判る状態じゃない。
 で、そんな大晦日に紅白を見ると、桑田さんが出てて、平和についての歌を歌っているわけだ。
 父との昔の会話を思い出して、うっかり号泣してしまったよ。
 最初に"ピースとハイライト"を夏に聴いた時は「こんなゆるいメッセージ・ソングより、弾けたシリー・ポップ・ソングで帰って来て欲しかったよ桑田さん」と思うくらいで、そんなに好きではなかったんだが、個人的な状況にハマってしまう内容だったんだね。
 父に聴かせたかったなあ。でももう、この家には父はいない。めくるカレンダーが一枚増えた。と思うと、涙が止まらなかったよ。
 もっとちゃんと話を聞いて置けば良かったなあ。でもあとの祭り。これが「孝行したい時に」ってやつかあ。
 父のことで本当に泣いたのはその日限り。

●その後世の中ではサザンバッシングが吹き荒れているようだけど、まあ仕方ないのかな。
 いわゆるネトウヨ的価値観からしたら、許されざることなんだろうね。
 でも、取り締まる方も取り締まられる側のことを思いながらやってたんだよ。そんな単純な話じゃないんだよ。右とか左とかに分けると楽なのは判るけど、そんなに楽には行かないんだよ。
 っていうようなことは、父の代弁者として後世に語り継ぐべきことなのかな、と思っています。

●年明け早々、あまり楽しい話ではないですね。最後は笑い話。
 でまあ、そんなことを思いながら正月にもう一度父の見舞いに行って。
 筆談ならもう少し話ができるんじゃないか、って妻がアドヴァイスしてくれたので紙とペンを持って行って、「絶対良くなる」とか書いた紙を見せながら紙とペンを渡してみると、何か書こうとするんだね。
 おお、何かいいことを書いてくれるかな、と思っていると、私の持っていたペットボトルのお茶を見ながら「玄米茶」って書いてる(笑)。見たらお茶が飲みたくなったみたいでさ。
 何で、このまま行くと今のところ、父に最後にもらった言葉は「玄米茶」(笑)。
 何かこれ、志ん生の『火炎太鼓』のくすぐりで「よく見たら今川焼って書いてあった」ってやつに通じるおかしみがあるよね。何でまあ、何卒、笑ってやって下さい。今年もみんな、笑って過ごしましょう。

2013年度ベスト・アルバム(さすがに最終回・日本編その他)

●前回書いた通り、昨年度の日本の音楽のベスト5を書いてこのシリーズは終了。あとはまた来年度。

『BLUE THOUGHT』
TwiGy al Salaam

 一昨日ケータイをアイフォンに換えたんだけど、それまではいわゆるガラケーで、その「ガラ」ってのは別にダリの奥さんではなくてガラパゴスのガラなんだが(って誰でも知ってるか<苦笑>)、このツイギーの最新作は正にガラパゴス的進化/深化を遂げたアルバム。元々『続・悪名』の“Quiet Storm”を嚆矢とした、ツイギーの官能ラップの側面に特にヤラレっぱなしだった私にとっては究極の作品。世界のどこにもこんなラップをする人はいない。

『GOLDEN TIME』
RIP SLYME

 ポップスとしてのラップ、ってことで言うとこれは極まった作品。ポップなのにカッコ悪い側面がほぼない。リップは相変わらず絶好調。
 というだけではベスト5に選ばないのだが、ランナーの気持ちを歌った“Run with...”がよく出来ていたこともあってランクイン。その曲のおかげでラン中によく聴いた。メンバーに誰かランナーがいるのかな。

『Flying Saucer』
Crazy Ken Band

 ランナーの曲と言えば、『ZERO』には"湾岸線”というランナー向け名曲を提供していたCKB。あれはホント、走りながら聴くとアガります。
 で、前作『イタリアン・ガーデン』が私の好みにはもうひとつ合わなかったのだけど、最新作はガッチリフィット。これならやっぱり一生CKBについてくよ、と間違いなく言えるアルバム。やっぱりCKBは夏や海のことを歌うと一際良いなあ、と再確認。

『Pop Station』
Nona Reeves

 ここ15年くらい、日本のフェイヴァリット・バンドと言えばCKBとノーナなのだけど、昨年度はそのふたつが充実したアルバムを出してくれた。
 ノーナの前作『Go』は、それまで「ザ・ベストテン」基準に焦点を合わせていたノーナが始めて「全米トップ40」基準で作ったアルバムだったと思う。洋楽モードってことね。そして『Pop Station』は、洋・邦の両方を無理なく併せ持ったアルバムになっている。いろんなシチュエーションで聴いて、どこでも合うという意味ではノーナ史上最高かな。
 とか言っている間にもうすぐ新作も出る。本作同様、きっとまた最新の最高傑作になりそう。


『星がみちる』
星野みちる

 アイドルのCDで一枚。昔、私のバンドのエンジニアで、そういうのに詳しいKくん推奨ということで聴いてみたらホント良かった。今のアイドル・ポップスは、何か二郎ラーメンみたいでちょっとツライんだけど、これはラーメンじゃなくて蕎麦ですね。

●音楽以外のジャンルでも少し。

●映画で面白かったのは『最後のマイ・ウェイ』。ポップ・ミュージックの最前線にいるスターならではのヒリヒリした感覚で全編駆け抜けるのがたまらなく良かった。90年代に小沢を見ていた時の気持ちを思い出しました、一郎、健二両方の意味で。

プライヴェートはランニング三昧だった分、読書量がかなり落ちてしまった。去年のベスト本も『ボク達のB級アーカイブ』というもので、これを「読書」と呼ぶのはちょっとためらわれる気もするけれど。ただ、これやっぱりタイトル通り、判る人だけにはものすごく判る本。これ見ながら服のことを考えるのが、ホント楽しかった。神は細部に宿る、ってことを再確認させてくれます。

●ではまた。次はもっと気軽に書こうと思っています、ひとつお付き合いの程を。

2013年度ベスト・アルバム(本編その3)

●連休に入ってしまいましたが、2013年度ベストテンの続き。そそくさと行きます。

『Feel Good』
The Internet
 詳細情報はこちらを。全曲試聴もできるようです。
 これは深夜ドライヴ、それも、もうすぐ夜が明けるその少し前の、空いた高速を走る時に聴くと良さそう。昔ならそんな時間には『Solo Monk』でキマリだったけれど、今ならこのアルバムだね。だけど、気がつくとそんなシチュエーションもごぶさただ。かつては夜明けと共に眠る日々を過ごしていたのに、いつの間にか昼夜逆転してしまった自分の日々が若干淋しくもあるけれど、もしまた夜を取り戻すことができたなら、このアルバムのことを思い出そう。

『Satellite Love』
Giovanca
 顔立ちやメイクはキツめなのに声はサラサラで、日本で言うと今井美樹のような存在感のジョヴァンカ。基本的に、音楽にあまり思い入れのない人々にお薦めしやすい、淡い味わいの音楽という印象ながら、どの曲も意外なほどしっかり作られていて飽きさせないのも共通している。今回のアルバムでは、初秋を軽快にドライヴするのによく合う“No More”、春先のお花見歩きに合いそうな“Lockdown”などが出色の出来。

『Lady』
Lady


 女性ヴォーカルものでは他に、ソウル/R&Bとしては堂々たる決定盤と言えるクリセット・ミシェル『Better』キッチュな味わいも残しつつより本格的にグルーヴ感を増したマイリー・トッド『Escapology』なども素晴らしく、曲単位で言ったらシェレーア“Love Fell on Me Feat.Stevie Wonder”(←ユーチューブのリンクです。何か八神純子とかの昔のニュー・ミュージックみたいですごく聴きやすいですよ。『Love Fell on Me』収録)が私のレコード大賞新人賞だったけれども、選考に当たり、私くらい選ばないと埋もれてしまうかも、という危機感を一番感じさせたため最終選考に残ったのがレディ。詳細はこちらを。
 このふたりのうちテリー・ウォーカーの2006年の『アイ・アム』はホント大好きなんだけど、しばし音沙汰のなかった彼女の健在ぶりが今回確かめられてとても嬉しかった。
 今回のアルバムは生音中心のサウンド・プロダクションで、こういうのは日本のソウル/R&Bファンの方が受け入れやすいんじゃないかと思う。“Money”って曲の持つ爽やかさなんか特に。
 しかしグループ名も曲名もシンプル過ぎて、検索で引っかからないのではないか。ということでちょっとエコひいきしてみた次第。とか書きながら検索していたところ、テリーのソロ新作も出るらしいという情報が。これは楽しみだなあ。

『Quality Street』
Nick Lowe

 私、実はクリスマス・ソング愛好家でして、去年はクリスマス・アルバムの結構なリリース・ラッシュで嬉しい悲鳴だったんですが(前も触れたマリオ・ビオンディメアリー・J.ブライジなど)、とりわけ心に残ったのはニック・ロウ
 クリスマス・ソングを聴きまくっていると、スタンダードのリメイクで心動かされる場合はほとんどなく、逆に「一、二曲だけ入っている新作クリスマス・ソング」が勝負の分かれ目だったりします。その点今回のニックのアルバムはほとんどがオリジナルで、かつ、“Christmas at the Airport”“Just to Be with You (This Christmas)”と、二曲も「新しいクリスマス・ソングの名曲が!」と。それだけでヤラレてしまいます。今回、空港クリスマスはそこそこ人口に膾炙しそうな気がしているんですが、その分後者が埋もれないよう選んでみた次第。しかしニック・ロウは第二のNRBQ化しつつあるなー。


『Beyoncé』
Beyoncé

 そして最後にビヨンセ。CDだけを通して聴いたあとには、いかにもファレルらしいキャッチーな音像が春にぴったりな“Blow”ばかりを繰り返し聴いていたけれど。やはり、(先週やっと通して見た)映像集を通らなければ、本作の真髄は判らない。
 あらゆる階層を越えて八面六臂の演技を見せるビヨンセ、しかし、観た者の印象として最後に残るのは彼女の肉体性。「ひとつ告白があるの、この大きなお尻は私の誇りなのよ、ベイビー、顔に擦りつけてあげるわね」(“Rocket”より)とまで歌うのは伊達じゃない。

●と、何とかベスト・アルバム10枚選びましたが、本当は日本の音楽も入れたベストテンにする予定でした。しかし選んでいるうちに海外作品だけでいっぱいに・・・・・・ということで、次回続編として『日本の2013年度ベスト5』をやろうと思います。もうとっくに2013年じゃないのに申し訳ないところですが、あと一回お付き合いを。

2013年度ベスト・アルバム(本編その2)

●何とか連休前には終わらせたい2013年度ベスト・アルバム、早速続きを行ってみましょう。


『Sun』
Mario Biondi

『AOR』
Ed Motta

『Where Does This Door Go』
Mayer Hawthorne

 私にとって、音楽を聴くシチュエーションで一番なのはクルマ、クルマに特に合う音楽と言えばAOR。ということで、昨年はそういったドライヴAORとして芯を捉えた作品がいくつか合った。まとめてご紹介。
 イタリアのちょい悪オヤジを地で行くマリオ・ビオンディ、しかし齢を聞いたら私より全然下で、何と言うか、二十代の頃に野球選手や相撲取りが自分より年下なのを知って驚く感覚を久々に味わった(笑)。
去年マリオはクリスマス・アルバムも出しているのだが、オープニングが“We Wish a Merry Christmas”のWeをMarioに変えたものだった(笑)。何という自己顕示欲。この押し出しの強さが何とも心強い。
で、旧作はもっとラウンジ寄りな作風で、このキャラにこの作風ならちょうどいい、というところだったのだが、新作はあまりちょうど良くない「やり過ぎ感」が出ている。この過剰さを私は「よきもの」として捉えていて、極めつけはシャカ・カーン、インコグニートを従えた“Lowdown”のカヴァー。松坂牛にトロ、といった趣のスーパー・キラー・チューンと言っていいけれど、これはクドすぎるという方も少なくないだろう。そこが分かれ目かな。私的には、こんな濃いのは当分出ないだろう、ということで断然支持です。

 続いて、ブラジルのAORマニア、エジ・モッタ。来日公演にゲスト出演した時のデイヴィッド・T・ウォーカーが凄かった、という評判に惹かれて聴いてみた本作だが、やはり彼の参加曲“Dondi”が頭ひとつ抜けている。久々に神様が本気出した、という感じで、野球ファンには84年オールスター戦の江川的確変、と言えばそのニュアンスが判るだろうか。
 それ以外の曲も「よく判ってるなあ」と感嘆する曲ばかりで、ぜひ次回は日本制作、それも達郎や角松クラスのプロデュースで一枚作って欲しいところです。

 昨年暮れから職場が銀座の近くになり、お昼休みに近辺を歩くのがつかの間の楽しみとなって久しいのだけど、そんなプチ銀ブラにぴったりだったのがメイヤー・ホーソーン。先に取り上げた二人とはうって変わって上品で柳腰。しかしこの押しの弱さがあとを引くんだな。私にとってのキラー・チューンはケンドリック・ラマーを従えた“Crime”。トラック(と言うかギター・リフ)が妙に“人間発電所”にそっくりで、ケンドリック・ラマーの横からデヴ・ラージやNIPPSが出て来そうに感じられるところが面白い。

 ここまでで五枚。もう少し引っ張らせていただいて、あと五枚は次回以降また。

2013年度ベスト・アルバム(本編その1)

●さて、前回は序文だけで終わった2013年度ベスト・アルバムですが、今回は本編行ってみたいと思います。

『The 20/20 Experience』 / Justin Timberlake

 ポップ・ミュージックから革新的な新しいスタイルが生まれることはなくなった。ということが言われて久しい気がするけれど、ジャスティンの復帰シングル“Suit and Tie”は、間違いなくフレッシュな音楽だったと思います。どのように素晴らしいかは、菊地成孔さんがここでおっしゃってるのでご参照下さい。続いてリリースされたアルバムも、冒頭の“Pusher Lover Girl”と“Suit and Tie”のワン・ツー・フィニィッシュがとにかく強烈で、そこで既にノック・アウト。
 で、菊地さんも言うように、フレッシュなのもさることながら、音がいい。昔はリファレンスCDっていうと『The Nightfly』でキマリだったけれど、何年かぶりのリファレンスCD決定版ではなかろうか。そう言えば去年の秋、これとフェイゲンの最新作、あと数枚だけのCDを持って実家に帰省したけど、クルマでジャスティンとフェイゲンだけ延々と聴いていて、少なくとも数日なら飽きることなかったなあ。ドライヴ・ミュージックとしても最高。
 と、言うことなしの最強作であるように見えて、議論が分かれそうなのは、このアルバムの一曲一曲の尺の長さではないだろうか。ここで終ったらいいのに、ってタイミングで終らず、二、三分余計に続く気がする。これが昔の山下達郎“Solid Slider”“Paper Doll”のように「むしろエンディングが楽しみ、もっと続いて」となるような長さならいいのだけど、単に長いだけと言うか、いわゆるディレクターズ・カットが先に本チャンとして来てしまった。というようなな長さで、続編『The 20/20 Experience - 2 of 2』ではそこが更に顕著。
 しかし、そこを今回の「難点」とするのはあまり楽しくない。ここで改めて本作のタイトルをもう一度見てみると、これは「20日間で20曲作った」という意味。「録って出し」である。その勢い故の「編集の甘さ」が作品に残ってしまっているところを、ここはむしろ味わい尽くすのが本作の楽しみ方ではないだろうか。

『Blurred Lines』 / Robin Thicke

 2011年のベストはロビン・シック『Love After War』だった。その前の年も、ロビン・シックの新作がその年のベスト、という年が何年か続いたように思う。今現在のどんな黒人シンガーよりも「スウィート・ソウル」を体現している存在はシックを置いて他にはないんではないか。
 そんな彼が“Blurrd Lines”で再ブレイクを果たしたのは、大ファンとして喜ばしいことだったし、続くこのアルバムも、大ヒットの勢いそのままの充実作で、特に“Ooo La La”“Ain't No Hat 4 That”といった爽やかカッティング系の曲が並ぶアルバム前半は本当に素晴らしい、の、だが・・・・・・。やはり『Love After War』がシック式美メロの集大成だっただけに、今回の美メロ要素の大幅縮小は淋しい。とは言え、『Love After War』は全米チャートでトップ20に入らなかったと言うから、ここでの路線変更は致し方なかったところなのかも。ひと通り落ち着いたら、また美メロ満載のアルバムも聴かせて欲しいところだ。ちなみに、“Blurrd Lines”のヴィデオでは私はAKBのやつがお気に入り。いつもいつも制服みたいなのを着せられてばかりより、こっちの方が彼女たちも楽しかろうと思う。

 この二作にダフト・パンクのアルバムが、昨年の大ヒット・アルバムで私もよく聴いた三枚、ということになるが、ダフト・パンクはさすがに私が言わなくても皆様大好きだろう、ということでベストには入れません。
 と、二枚紹介したところで、この週末もそろそろ時間切れ。あと八枚は来週末また。

2013年度ベスト・アルバム(序章)

●年度替わりということで、昨年度のベスト・アルバムを選んでみます。
 年度末じゃなく、普通に年末にやればいい気もして、特にこのサイトのことを知った時には、その締め切りに間に合うように年末やろうかな、と心が動きかけたのだけど……その、「音楽オタク」ってコトバが単純にイヤで(苦笑)、「そ、そんな、人のことをダサイ奴みたいに呼ばないでくれ。せめて『音楽マニア』とかにしといてくれないか」って気持ちになってしまったので。やっぱり年末はやめて、より「聴き逃がし」の少ないタイミングとなる年度末にしました。
 でもまあ、やっぱり「年間ベストテンを選ぶ」とかいうアティチュードは、おたくとか言われても仕方ないよな。ということで長年、ベストテン選びはやめていましたが、昨年復活した理由はこちらに書いた通り。もう少し付け加えると、今年44歳の私と同世代でかつて音楽好きだった人たちでも、今は時間が取れなくて年間ベストテンを選ぶほど音楽を聴くことができない、というお話もよくうかがうので、せめて自分だけでも、エントロピーに抗えるうちは抗っときたいな、というところもあります。それこそ、ダサイくらい我慢しろ。ってやつでしょうか。
 クラブの取り締まりも相変わらず厳しいというし、ヘッドフォンで音楽を聴く人への世間の風当たりはやはり厳しく、電車は仕方ないとして、皇居で走る時にも音楽聴いちゃいけないっていうし(※1)、家じゃ家族もいる。となると、音楽を聴けるシチュエーションはほとんどゼロになってしまう。そんな中をかいくぐって聴いた音楽の記録。ということでひとつ。

●と、序文を書き終わったのはいいのですが、いざ盤を選んでみると、ベストテンに選びたい作品が10まで絞れないうちに、日曜の23時過ぎを迎えてしまいました(泣)。なので続きは次の週末へ。引っ張るほどのことでもないんですが、何卒お許しを。では次週また。

(※1)千代田区観光協会のマナー集によるとそうらしい。私は帰宅ランでどうしても皇居通るんだけど、もし誰かに実際に「ヘッドフォン外せ」って言われたら、今後は皇居を避けて走ろうと思っています(幸い、まだそんな目には遭っていませんが)。どうしてもランナーから音楽を取り上げないと気が済まない人たちが一定数いるようなので、自衛策として、音楽好きランナーの皆さん向けに書いてみますが。そうした人たちに攻撃材料を与えないためには、最低限事故なく走ることが何よりですので、ひとまず「振り返り」はマメにしましょう。それだけでほとんどの接触事故は避けられるはずです。他にも必要な部分がありましたらご教示の程ひとつ。
 想像するに、音楽ファンでランナーの皆さんは、私のように常にひとりで走るランナーが多く(みんなで走ってたら音楽聴けないものね)、そうすると何かのラン団体に加入している割合も少ないので、その声を世の中に伝える機会も少なくなり、結果としてマイノリティの主張になるのかと思われますので、何とかその声を集める手段がないものかと思っています。